カテゴリ:小説( 5 )
上橋菜穂子 『精霊の守り人』 新潮社
日本を思わせる東洋風ファンタジーです。文庫になったのでトライしてみました。もっと早く読んでおけばよかった、とちょっと後悔しました。NHKのBSで今、アニメをやっているそうなのですが、BSが入らないので、見られません。残念。

主人公は三十路の短槍使いの女性、バルサ。用心棒で身を立てています。ちなみに、特に美人という設定ではありません。この時点で、今まで読んできたファンタジーと違うなぁと思いました。今まで読んできたファンタジーは、洋の東西問わず主人公が少年少女が多かったので。(指輪物語は高齢ゾーンに入るかな)

バルサが、たまたま皇子チャグムが河に落ちたところに居合わせて、彼を救ったことから、物語が始まります。チャグムの母に息子が命を狙われているので助けてくれと依頼され、依頼を受けて都から脱出したら襲われて…と矢継ぎ早に事件がおきます。このあたりまでで、バルサがとてもかっこよくて、物語にひきこまれました。

この本、児童書を文庫化したそうですけれど、読むのに年齢関係ない感じがします。物語とは、10代の少年少女でも、30歳でも、あるいはもっと年が上でも、「かっこいい」人は主人公になれるし、読者もまた年齢問わず、はるか遠くの異世界と主人公の活躍に引き込まれていくものなのでしょう、きっと。当たり前のことなんだけれど、忘れていました。目が覚めたような気分です。

そして、語られるバルサの過去で、バルサは最初から今のバルサだったわけではなく、努力したり、さまざまな経験を積むうちに「かっこいい」人になったのだ、ということが明かされます。若さがすべてではないですね。確かに。いわばある程度完成したバルサと、一方で、宮殿で暮らしていて、まだなにも経験していない若いチャグム。チャグムの成長も読んでいて面白かったです。こちらは若さの可能性を感じました。

というわけで、次巻の文庫も出ていたので、今日買ってきました。電車の中で読む予定。
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by alcyon_sea | 2007-07-09 22:43 | 小説
小川洋子 『博士の愛した数式』 新潮社
文章が読みやすそうだったので、電車の中で読んでいました。確かにさらさら読めたのですが、無性に泣けてきて、どうやら電車の中で読むには不適な本だったみたいです。あやうく夜の車内で文庫本を前に泣いてるいわくありげな人になるところだった…。理屈がどうの、ではなく言葉が心にダイレクトに響く感じでした。文章がよいのだろうなぁ。

内容は記憶が80分しかもたない博士と、物語の語り手である家政婦の「私」、「私」の息子の交流の話。日常が淡々と綴られています。同時に過去の話が出てきます。「私」の過去、博士の家の隣に住む博士の義姉と博士の過去。どれも過去に膨大な量の感情が渦巻いたのだと思うけれど、これも淡々と語られていました。でも、あっさりしているから、余計にくるものがありました。すべての感情が詳細に書かれていないがゆえに、かえって読み手があれこれ想像するからかも。

あとこの話は、小道具の使い方がすばらしいと思いました。江夏のカードや野球のグローブ、他にもいろいろありましたが、モノと人の感情や記憶がきれいに絡み合っているので、そのモノが再登場したとき、読んでいてぱっと以前の場面が蘇ってきました。

それから数学。博士は数学博士なので、もう一人の主役といってもいいくらいに、数学の話がたくさん出てきます。素数、友愛数エトセトラ。数学がとにかく嫌いだった私には、こういう見方があるのかと少し感動的でした。ああ、なるほどと思ったのは、「私」の不安でせわしない生活の中では、永遠に正しい真実の存在が必要である、目に見えない世界が目に見える世界を支えているとい実感が必要であるとの述懐。人の心の安心や充足のためには、目に見える世界のみではなく、見えない世界までも知覚する必要があるのだと私も思います。確かに数学は目に見えない世界を知覚するためのひとつの方法ですね。そう考えると、数学も少しは好きになれそうな。

……でも、オイラーの公式あたりで頭が凍結しました。やっぱりだめかもしれない……。
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by alcyon_sea | 2007-06-03 22:39 | 小説
佐藤賢一 『王妃の離婚』 集英社
直木賞受賞作品、に納得。面白かったです。この作者らしく、中世フランスの親族法や裁判の様子も詳しくて、楽しかったです。カルチェラタンの活気は、以前読んだ同じ作者の『カルチェラタン』を思い出しました。

内容
舞台は1498年フランス。国王ルイ12世は王妃ジャンヌに対して離婚裁判を起こします。裁判で、王は王妃に身体的欠陥があって普通の結婚生活ができないから別れるのだと主張しています。

しかし、これは建前で王妃は前王の娘。前王は死んだし、べつに美人ではなし、気が合うわけでなし、早く別れてもっと領地をいっぱい持っているお金持ちの後家さんと結婚したいというのが王の本音。有力な味方のいない王妃は、孤立無援の戦いを強いられています。そんな王妃の弁護に立ち上がったのが、かつてパリ大学で秀才の誉れ高かったフランソワ。わけあって今は、しがない田舎弁護士です。

裁判が進むにつれて、フランソワの過去が明らかになっていきます。フランソワが都落ちした原因は、王妃の父である前王にありました。前の王様も結婚問題でいろいろやってしまっていて、フランソワはそれとは知らずにつきとめてしまったために、王の怒りを買って都落ちする羽目になったのでした。



いわば敵の娘の弁護をするフランソワ。さらにフランソワの過去の女性や、その女性の弟とのいざこざも登場してきます。中世フランスにふさわしく、アベラールとエロイーズの物語が下敷きになっていました。

アベラール、昔読んだ子供向けの本では自分の信条を貫いて挫折した信念の人のイメージだったのですが、この本だと結構情けないダメ男でした。これは、女性の親族にやられても、同情はできないというか、いやそれでも気の毒ではあるのだけれど(ごにょごにょ)ちょっと見方が変わりました。

離婚裁判の闘いの物語であると同時に、フランソワや王妃の過去との和解の物語でもありました。舞台は中世ではあるけれど、過去との葛藤やもつれた男女の感情は現代にも通じるところがあり、特殊性と普遍性がいい感じで混在している気がしました。それに最後の終わり方がとてもさわやかで、良かったです。
……現実にはなかなかこう綺麗にはいかないと思いますがね。(ぼそっ)
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by alcyon_sea | 2007-04-25 20:56 | 小説
フェルドウスィー 『王書』 岩波書店
サブタイトルは「古代ペルシャの神話・伝説」。イスラム以前のペルシャです。アッラーではなく、拝火教の神の名が出てきます。↓表紙の紹介文から。

ササーン朝ペルシャがアラブの侵攻で倒れて三百数十年,11世紀初めにアラブ中央政権に対抗して書かれたペルシャ民族高揚の叙事詩―神話・伝説・歴史時代の3部構成からなる「ペルシャ建国の物語」。今も,誰でもその1節を暗誦することができる,と言われるほどイランの人々に愛されている『王書』からその名場面を抄訳。
なるほど。征服されたので民族高揚か。なんとなく旧約聖書を思い出す…。「創世記」なんかはバビロン捕囚時なぞに書かれたのですよね。

それはともかく、神話時代は結構面白かったです。(実のところ、ブックオフで捕獲した主たる理由は、某和製ファンタジーのネタ本の一つだからなので、それ中心に読みました)

というわけで、某和製ファンタジー関係中心にメモ。

○第一部 神話時代
王たちが順番に出てきます。
1 カユーマルス王(在位30年)
2 フーシャング王(在位40年)
3 タフムーラス王(在位40年)

ここまでは、なぜか在位年数が比較的普通。すでに悪魔との戦いが出てきます。カユーマルス王はわが子スィヤーマクを悪魔に殺されます。その敵を討ったのが、スィヤーマクの子フーシャング王。でも、何が何でも悪魔は殲滅せよ!、ではないみたいです。タフムーラス王は悪魔との戦いに勝ちます。悪魔たちが殺さないで下さい、そうしたら秘術を教えますといったら、願いを聞き届けています。そして、悪魔たちから文字や何種類もの言語を学んでいます。悪魔から学ぶなんて結構柔軟です。(悪魔はペルシャ民族より文化の発展していた異民族だったのかも)

4 シャムシード王(在位700年)
シャムシードからザッハークは某和製ファンタジーのネタ元の模様。熱心に読みました(笑)

いきなり、のびる在位期間。偉大なる統治の王、だそうで。在位中いろんなことをしています。悪魔を使って、建物を建てたり、宝石を鉱物の中から取り出したり。シャムシードの治世は平穏に過ぎ去り、「人間は死をしらず、苦しみも不幸もなく、悪魔たちは奴隷のように鎖につながれていた」そうです。

が、あるとき、王は傲慢不遜になり、神を崇めなくなります。で、自分を崇めよと命じるわけです。その結果、神の恩寵は王を離れ、争いが世に広がったそうです。(某和製ファンタジーだと、この理由は省かれていたような?説教臭くなるからか、こんな理由はないほうが悲劇性が増すからか、はわかりませんが)そんななか、ザッハークが台頭してきます。

ペルシャ神話のザッハークは最初から悪人でも悪魔でもありません。多少権力欲は強いのですが…。砂漠に住むアラブ人の王の息子です。ある日、悪魔がやってきて、ザッハークを誘惑します。誰も知らないことを教えてあげるかわりに、私に従うという誓いを立てろと言います。ザッハークはひかっかり悪魔の掌中に落ちます。そして、悪魔の勧めのままに、実の父親を殺してその地位を簒奪。

悪魔は料理人に化けて、ザッハークに肉料理をだします。それまで、人々は肉料理は食べていなかったらしいです。で、肉料理を気に入ったザッハークが、悪魔に望みのものを言うがよい、と告げると、悪魔は両肩に接吻させてください、と願い出ます。接吻したとたん、悪魔の姿は消えて、ザッハークの両肩から一匹ずつ黒い蛇が生えてきました。この蛇は切っても切っても生えてきます。医者もどうにもできません。

そこで、悪魔が医者に化けて再登場。蛇を切り落としてはいけない。餌を与えて宥めてやろう。ただ、餌は人間の脳みそのみを与えること。この餌が蛇の命をとるかもしれないから(しれないから!?テキトーすぎるよ)と治療法を教えます…。肩から蛇が急に生えればパニックに陥るのはわかるけど、変な治療法を信じてはいけません…。

その後、ザッハークはシャムシードが人望を失って混乱しているペルシャに乗り込み、シャムシードを倒してペルシャを征服。

5 ザッハーク王(在位1000年)
蛇王。在位期間が長すぎます!それはともかく、シャムシードを倒したザッハークはシャムシードの娘シャフルナーズ、アルナワーズを妻にします。

肩の蛇にやる餌のために、毎日二人の若者が殺されます。で、若者を救うために二人の人物が、料理人になります。毎日一人を助けて、動物の脳みそ(別に羊とは限らなかったらしい)と人の脳みそを混ぜて料理して出します。救われた若者が200人に達したとき、彼らに羊とヤギを与えて砂漠に送り出します。別に彼らはザッハークを倒すために立ち上がるわけではなく。クルド族は彼らの血を引いているそうです。定住地を持たず、テントに住み、心には神への畏れをもっていないそうで。…どうやら今に至るクルド族問題って、イスラム以前からあったみたいですね?

色々悪いことをしたザッハークですが、寿命残り40年になって、自分が倒される悪夢を見ます。自分を倒す人間がこれから生まれるらしいというので、色々画策するのですが、時既に遅し。ザッハークを倒すためにペルシャ人の青年フェリドゥーンが立ち上がります。フェリドゥーンは父をザッハークに殺され、牝牛の乳を飲んで育つけれど、その牝牛もザッハークに殺されてます。倒す動機は十分。

フェリドゥーンはザッハークを倒し、デマーヴァント山に鎖でつなぎます。山中の深い穴の底にザッハークを固定し、両腕を岩にくくりつけ長い苦しみを味わうようにします。実はフェリドゥーン自身はザッハークを殺そうとするのですけれど、天使にとめられるのですよね。悪はこの世からなくならない、ということのようです。

6 フェリドゥーン王(在位500年)
新生の王。フェリドゥーン王は、シャムシードの娘でザッハークの元妻シャフルナーズ、アルナワーズを妻とします。…この二人いくつなんですか?それに年上妻なんてもんじゃない。

ともかく王子三人に恵まれ、多少苦労したけど息子たちの嫁取りも首尾よく終わり、息子たちに国も分けてやり、めでたしめでたし、にはならず。上の息子二人が末息子をねたんで不穏な動きを見せ始めます。末息子に豊かなペルシャの地が与えられたのが不満の様子。ちなみに長男は小アジアと西方の地が与えられ、次男にはトゥーラーンの地(中央アジア・アラル海東方と推定される)が与えられました。ペルシャ神話だと、ペルシャもトゥーラーンも起源は一緒なのですね。でも、仲は悪いのですね。

よせばいいのに、兄二人と話し合いに出かけた末息子は、兄二人に殺され、王は深く嘆きます。が、やがて末息子の孫にあたる男の子マヌーチェフルが生まれ、マヌーチェフルは祖父の敵を討ちます。フェリドゥーン王は、マヌーチェフルに王位を譲り、三人の息子の首を目の前において嘆きます。

*私見
ザッハークが、父親を殺したり、人の脳みそを肩の蛇に食わせたりと悪なのは、アラブ人征服者だというのが多分に影響しているように思えました。ササーン朝がアラブに倒されて、アラブの中央政権に抗するべく書かれたのが『王書』みたいですし。悪魔ザッハークの正体は被征服民族ペルシャ人のアラブ人への憎悪、なのかもと思いました。やっぱ、人間のほうが悪魔より怖い(笑)でもその悪が、最初から絶対的な悪ではなく、ザッハークももとは普通の人間だったというところが、隣り合う民族同士の微妙な感情の表れなのかなぁ。ザッハークだけでなく、クルド民族のところもですが、今に至る中東情勢の複雑さを垣間見た気分。


○第二部 英雄時代
正直それほど面白くなかった…。頭が生まれたときから白髪だったので、父親に捨てられた英雄の話とかが出てきます。その英雄ザールは、ザッハークの血を引くアラブ人の姫ルーダーベと恋をして、すったもんだの末結ばれます。蛇王も子供を残すし、その子孫と結婚もできる、と。で、その二人からまた英雄が生まれ…と話は続きます。

面白くないのは、原文は韻を踏んでいるのだけれど、その感じが訳すると出てこないというのもあるのかなぁと思いました。
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by alcyon_sea | 2007-03-03 22:26 | 小説
シュテファン・ツヴァイク 『マリー・アントワネット』上 岩波書店
シュテファン・ツヴァイクの『マリー・アントワネット』を電車の中でちまちま読んでました。上巻を読み終わったところですが、面白いです。ベルバラの元ネタになったと言われるだけのことはある?確かに人物造形がベルバラとそっくりでした。

まぁ、色々誇張して書かれていると思われるので、どこまでが事実どおりなのかはわかりませんが。この本に書かれていたオーストラリアから、フランス側に引き渡されるとき、下着まで替えられたというのは、事実に反するとどこかで読んだ記憶がありますし。

事実云々はともかくとしても、歴史上の人物が、等身大の女性として生き生きと描かれていて、面白かったです。お金持ちで家柄が良くて、頭は悪くはなく、人柄も悪くなく、但し努力が嫌いで遊び好き、加えて浪費家。当時もこんな女性は何人かいたと思うし、今でもいるのでしょう。ただ、マリー・アントワネットの場合、運良くあるいは悪くフランス王妃だったというだけで。行状の改まらない娘にウィーンの女帝が送った手紙の数々、兄の皇帝がパリに来たとき、去り際に残していった書状が、涙を誘います…。

宮廷の様子やトリアノン宮殿の様子も細かく書かれているので、セレブな生活ぶりも堪能できました。朝、起きると、係りの者が衣装のミニチュアを貼り付けた本を持ってきて、それを見て、その日の衣装を決めたそうな。そういえば、今、マリー・アントワネットの映画をやってますね。衣装にとてもお金をかけたそうで、一番高いドレスは1000万円かかったとか、新聞に載ってました。映画館に行けたらいいなぁ。

上巻の最後にようやくフェルセンが登場。それまでと打って変わってロマンチックな展開になっています。それまでは、結婚当初、夫が7年間不能で、アントワネットがそれがために、欲求不満爆発で遊び暮らしていた、というような、身もフタもない話くらいしかありませんでした。ツヴァイクは、7年間、身体をいじられるだけで、最終的な満足が与えられなかったためにアントワネットはあんなふうになってしまったと分析してますが…なかなかえぐい見解です。下巻はアントワネットの転落人生が語られると思うので、それとフェルセンがどうからむのか楽しみです。
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by alcyon_sea | 2007-01-19 22:01 | 小説